久遠の果てで、あの約束を。

一時間目の授業は古典だった。



元々授業は真面目に受ける方なのだが、こうも問題を抱えていると、自然と意識は学業から遠のいていく。


機械的にノートを取るだけの五十分は、途方もなく長かった。


「ねー、授業中寝ちゃったからノート見せてくれない?」


寝起きの声をした渚が、机に突っ伏した状態で話しかけてくる。

どきりと肩と心臓が跳ねた。


嘘にしか聞こえないけれど、失恋の傷を学校に持ち込む気は更々なかった。

そんな一時の感情で、残り少ない彼との時間を無駄にしたくなかったから。

だから、自分の気持ちにさっさとケリをつけて、またいつも通りの日常を過ごすつもりでいた。


「ん」


その決意とは裏腹に、ついぶっきらぼうにノートを手渡してしまう。切れ長の瞳を一度も見ずに。


「ありがと。今日中に返すわ」

その言葉に、返事はしなかった。


たかが失恋程度であれば、一晩泣くだけで後はどうにでもできた。

たとえ胸が張り裂けそうになったとしても、表面を取り繕うのは得意なのだ。


それなのに家の問題が重なって、他者を気遣う心の余裕がなくなってきている。


失恋だけだったら、今頃薄っぺらい作り笑顔を浮かべていた。

家の問題だけだったら、渚の目をちゃんと見れた。


運がないというかなんというか、せめて席替えで渚の隣の席にさえなっていなければ、もっと違ったはずなのに。



心にかかった霧とは無関係に加速する脈拍が、鬱陶しくて仕方がなかった。