久遠の果てで、あの約束を。

「実はな、この間萩佳(しゅうか)から連絡が来たんだ。優希に会いたい。今までのことは反省している。だからもう一度、親子としてやり直すチャンスをくれーーと。俺としては、優希の意見を尊重したいと思っている。……お前はどうしたい?」


どうしたいって、急にそんなこと言われても。


正直、母に会いたいか会いたくないかはよくわからない。ただ、急な展開に頭がぐるぐると混乱している。

油断しているとなにかとんでもないことを口走ってしまいそうな気がして、腕に強く爪を立てた。

珈琲の香ばしい豆の匂いだとか、LEDの人工的な眩しさだとかが、やけに鮮明に襲いかかる。


大体、反省しているってなに? なにを反省しているっていうの?


私に自分の理想を押しつけたこと? それとも、私を捨てて出て行ったこと?


傷口に塩を塗られたみたいに心がひりひり傷んでも、否応なしに時間は進む。勿論話も、先へと進む。


「萩佳は今、お祖母ちゃんの家に住んでいるそうだ。もし許してくれるのならそこに来て欲しいと、そう言っていた。もう一度訊く。優希は萩佳にーー、お母さんに会いたいか?」



ここまで聞いて、とりあえず言いたいことは沢山出てきた。


なに都合のいいこと言ってるの。お父さんも私のことを考えているのを装っているけれど、本当は私を厄介払いするいい機会だと思っているんでしょう。

他にも、皮肉めいた言葉なら沢山思いついた。


だけど考えが上手く纏められず、笑ってしまうほど弱々しく掠れた声で、



「少し、考えさせて」


としか言えなかった。