久遠の果てで、あの約束を。

腫れぼったくなった目元を涼風で冷やしてから帰宅すると、玄関に自分のではない靴が置いてあった。

手洗いうがいを済ませてからリビングに繋がる扉を開け、予想通りダイニングで珈琲を飲んでいる人物を見る。


「お父さん、帰ってたんだ」


父とまともに顔を合わせたのなんて、何ヶ月振りのことだろう。


今までも最低で月に一度は帰ってきていたけれど、お互いにほとんど口を利かなかった。

一応は血の繋がった親子なのに、元の関わりが薄いせいか、対面すると少し身構えてしまう。


当の本人はそれを知ってか知らずか、更に私が警戒するようなことを言ってきた。



「あぁ。優希、ちょっと座りなさい。大事な話がある」



なんだろう。私、お父さんにまで捨てられるのかな。


今までそうなることを想定していなかった訳ではないけれど、傷心状態でそれは流石に堪える。

だからといって、機嫌のいいときに出ていかれるのも困るのだけど。


嫌な予感を感じながらも机を挟んで向かいに座り、カップを置いた父が重々しく口を開くまで、じっと緊張に耐えた。



「優希は、お母さんに会いたいか?」



頭に重い衝撃が走ったのは、これで本日三度目だろうか。


心臓が嫌な音を立てて軋み、背中が汗でべたついた。