「本当にそれでいいの?」
篠原が、辛くない訳がないのだ。
今日初めて、篠原がこちらを見る。さっきの真面目顔とは打って変わって、馬鹿みたいに目を丸くして。
あんたそっちの間抜け面の方が男子高校生らしくていいんじゃない? と心の中で笑いながら、川に小石を投げ入れる。
ちゃぷんと気持ちのいい音がしたと同時に、水紋が綺麗に浮かび上がる。
何度か水紋を作ってから、小石は向こう岸へと消えた。
「確かに、篠原の言うことは間違ってないと思う。でも、いくら願ったって、宮野さんが幸せになれる保証は何処にもない。とっても悲しいことだけどね。現に宮野さんは、今凄く傷ついてる。そんなにあの子が大切なら、さっさと幸せにしに行ったら?」
本当は最初から気がついていた。
篠原が慰めに行きたがっていることに。
しばらくの間沈黙が流れて、音もなく立ち上がる気配がした。
「お前は、行かなくていいのか?」
多分、渚のことを言っているのだろう。むしろ、それ以外に思い当たる節がない。ゆっくりと首を横に振る。
「私はいいの。別に慰めることもないし。そもそも今何処にいるのかわかんないし。失恋したんだから、ちょっとは一人で泣かせてよ。ほら早く行きなって。急がないと、宮野さん帰っちゃうよ?」
過去最高の早口でまくし立ててから、急かすように手をひらひらと振ってみせる。
篠原はまだなにか言いたそうにしていたけれど、空気を読んだのか宮野さんが心配なのか、すぐに学校に向かって走っていった。
頑張れよ、篠原。

