久遠の果てで、あの約束を。

「は?」


声だけで、篠原が間抜けな顔をしているのがよくわかった。多分、予想外の言葉だったのだろう。

だけど、逆にそれが不思議なくらい、その回答には納得がいかなかった。


無言の圧力で続きを促してくるくせにこちらを向く気配がなかったので、私も川を見つめたまま続ける。


「ほら、宮野さん失恋して傷心中だろうし、今から行って慰めて来れば?」



そうすれば、振り向いてくれるかもよ?



最後の言葉は口にはしなかったが、言いたいことは伝わってくれたらしい。


「それじゃあ意味がねえ」


やけに真剣味のある声が、ひぐらしの鳴き声と混ざる。


「そりゃあ好きになって貰いたいし、付き合いたいって気持ちもある。だけどその前に、恵理は大事な幼馴染で、他の誰よりも幸せになって欲しい相手だ。そんな汚いやり方で手に入れるくらいだったら、最初から諦めた方がずっとマシだ。俺なんかより、恵理を幸せにできる男なんていくらでもいるしな。好きな奴の幸せを願うのが本当の恋なんだって、俺は思うよ」



意外だった。


篠原がずっと、そんな風に考えていたことが。

そして、心の底から尊敬した。

なんの恥ずかしげもなく宮野さんを大事だと言い切ったことに。他の誰よりも彼女を思いやっていることに。


それは誰もが頷くような正論で、充分過ぎるほどの愛情と誠実さが伝わってくる言葉で、本気で宮野さんを思っているのだと、痛いくらいに伝わってくる。



だけど、いや、だからこそーー。