そのまま数秒間見つめ合ったのち、お互いにぷっと噴き出した。



「あー、やっぱ今のなし。結構恥ずかしいわこれ」

「本当それ。もう二度とこんなこと言わない」

「よかったね誰もいなくて。誰かに聞かれてたら地獄だよこれ」

「ね。そういえば、もうすぐ花火が始まっちゃうんじゃない?」

「そうだ忘れてた。そこにベンチあるから座って見ようか。下駄で立ちっぱなしは辛いでしょ?」

「うん。辛い」

「いいこと教えてあげる。そういうときは嘘でも平気っていう女の子の方がモテるんだよ?」

「ふーん。じゃあ私はモテなくてもいいや」

「言うと思った。まぁ、俺もそっちの方が都合いいからね」


「……え、今のどういう意味?」


「えー、なんのこと? ほら座って。急がないとマジで花火始まっちゃう」

「あ、うん」



慌てて渚の隣に腰かける。ぎりぎり手が触れるか触れないかの距離。不思議と、もどかしさはあまり感じない。


私達が座るのを待ち構えていたかのようなタイミングで、夜空に大輪の花火が咲いた。

ドーンと、少し遅れて破裂するような音が響き渡る。


暗闇を埋め尽くすようにして、次々と上がる光の花。

きらめきに灯された色彩が、余韻を残してきらりきらりと落ちていく。とても夜だとは思えない。


刹那の輝きで夜を彩る色とりどりの花火はテレビや写真で見るよりもずっと幻想的であざやかで、今見ている景色が過去になるなんて信じられなかった。



その過去になった先、それを一緒に懐かしんでくれる人はいない。


来年からは、きっと一人でこの花火を見る。


秋を超えて冬を凌いで春を迎えたら、私は本当にひとりぼっちだ。




「 」



一瞬だけ追った横顔がなにかを言ったような気がしたけれど、花火の音でよく聞こえなかった。