入学式から約一週間。私の平凡な日常は、とある少女によって妨害されていた。



「あの……、お昼一緒に食べない?」


焦げ茶色のボブヘアに、ぱっちりした栗色の瞳。女の子にしては少し背が高い。


斜め前の席の、宮野恵里(みやのえり)という女子生徒。席が近いからか、なにかと私に絡んでくる。


「ごめん、今日は一人で食べたいから」

自分で出した素っ気ない声に、昨日も同じこと言わなかったっけと思い出す。〝今日は〟じゃなくて〝今日も〟じゃん。と心の中で突っ込みを入れる。


そんな放っておいて欲しい私と、あからさまにしゅんとする宮野さん。そして、クラスメート数名の刺すような視線。


男女ともに絶大な支持を得ているらしい宮野さんを容赦なく追い払う私が周囲からどう見られているのか、そんなものは考えなくてもわかってしまう。



目立ちたくはない。だけどなるべく一人でいたい。


宮野さんもいつかは諦めてくれるだろうし、それまでの辛抱だ。


ほんのり感じた罪悪感に蓋をして、お弁当箱を持って裏庭に向かう。私のお気に入りの場所。

誰もいない裏庭では、満開の桜が咲いていた。純粋な人生を歩んできた人から見れば美しいであろうそれには目もくれず、お弁当箱の蓋を開ける。


小学校中学年くらいからか、見るもの全て、感じるもの全てがモノクロになった。

勿論、色は識別できる。

食べ物の味もする。匂いだってちゃんと感じる。それに伴う感情や感性が、ごっそりと抜け落ちてしまった。


空の色が見える。お弁当の味がする。花の匂いがする。ただ、それだけ。


そうは言っても、別に日常生活に支障はないからあまり気にしてはいないのだけど。


ぼんやりと考えごとをしながら、先程空にしたお弁当箱を持って立ち上がろうとすると、不意に、視界が春色に染められた。