「夏祭り?」



駅前でポケットティッシュの代替品として配られたチラシには、来週この近くで開催される夏祭りについて記載されていた。


来週なら、渚は退院している。

一緒に行くことができる。


不甲斐ない話だけど、私は医者じゃないから渚の病気は治せない。


あれだけのことをしてくれたのにもかかわらず、貰ってばかりでなにひとつ返すことができていない。


でも、一秒でも渚の苦しみを忘れさせることができるなら。

少しでも、渚に恩返しができるのなら。


踵を返して病院までの道のりを走る。汗だくになって息が切れても、握り締めたチラシがくしゃくしゃになっても、前だけを見て地面を蹴った。


どれくらいそうしていただろうか。気がついたら病室の扉を勢いよく開けていて、花瓶に活けられたタチアオイの花かわ萎れてしまうくらいに、驚きと心配が入り混じった渚の顔も見えないくらい必死に、




「夏祭り、一緒に行こう!」




と叫んでいた。