「じゃあ、私そろそろ帰るね」




二十分ほど話をして病室から出ると、廊下で見知らぬ女性とすれ違った。


「貴方もしかして……、高嶺優希ちゃん?」


突然、その女性に引き留められる。

切れ長の双眸が特徴の美人で、何処かで似たような顔をしている人を見たことがある気がするが、全然思い出せない。


「え、はい。あの……」

「あぁ。私、渚の母です」

「……! 初めましてっ」


慌てて頭を下げると、渚のお母さんはくすりと笑みを漏らした。


「渚から話は聞いているわ。毎日息子のお見舞いに来てくれてありがとう」

「いえ、そんなお礼を言われるようなことは……」

「そんなことない。実はあの子ね、優希ちゃん以外の人に病気のこと言ってないみたいなの」


そういえば、今まで病院内で誰にも会わなかった。渚の交友関係を考えると、誰かしらと出くわしてもおかしくないのに。


夏休みだし、入院していても誰にも気づかれないのだろう。


そう思うと、なんだか寂しい。


「これからも仲良くしてあげてね。渚、貴方と出逢ってから毎日楽しそうなの」

「こちらこそ、その……。よろしくお願いします」


絶対に思ってはいけないことだけど、こんなにも我が子を愛しているお母さんを持つ渚が、少しだけ羨ましくなった。