久遠の果てで、あの約束を。

最後に選んだのは、ショッピングモールから少し離れたカラオケボックスだった。


渚に勧められた曲を歌った後に、こんなことを言われた。


「前から思ってたけどさ、優希って綺麗な声してるよね」

「そう?」

嬉しいと思うより先に、奇妙な既視感に襲われる。

多い昔にも、同じようなことを言われた。


でも、誰だっただろう?


思い出そうとしたけれど、記憶の中にかかった霞に思い出すなと言われたような気がして、つい思考を放棄してしまった。

だからもうなにも考えないようにと、目の前の曲に集中した。




それから帰りの電車に乗って、渚の肩に寄りかかって少しだけ眠った。

内容は覚えていないけれど、とても幸せな夢を見た。



「ねぇ、凄く今更なこと言ってもいい?」



夕暮れどきの別れ道で、突然言われた言葉。


「なに?」

「ちょっと耳貸して」


言われるがままに耳を貸すと、彼は片方の手で私の肩に触れ、もう片方の手を自分の口元に寄せた。息がかかってくすぐったい。

なにかとても大切な内緒話でもするかのような囁き声で、渚は言った。


「今日、すっごく可愛い。俺のためにお洒落してきてくれたんだ」


ちがう、そんなんじゃない。自意識過剰なんじゃないの?

本当は意地を張ってでもそう言いたいのに、不意打ちで全部見透かされて、しかもそれを褒められて。

近くに鏡がなくてよかった。絶対顔真っ赤だから。


「うん……。ありがと」


自分でも驚くくらい素直に、あっさりと肯定してしまった。ばくばくとはやる鼓動がうるさい。

渚と別れた後、顔の熱を放ったらかして余韻に浸る。

沢山の素敵な想い出ができて、ふとした瞬間にときめいて。知らない痛みを味わって。

オレンジ色の夕日に照らされる中、今日の出来事を反芻しては勝手にドキドキしたりにやけたり。

傍から見れば、とんだ不審者かもしれない。

だけど、別にそれでも構わない。




この先頭の中で何千回と繰り返す、この日を忘れないままでいたいから。