「俺は神崎渚(かんざきなぎさ)。君は?」


〝君〟という単語にぴくりと反応する。初対面だからその呼び方は当たり前なのに、なにかが胸に引っかかるような気がした。


「……高嶺優希(たかみねゆき)

「どういう字?」

「高嶺の花の高嶺に、優しい希望」

「へぇ、ぴったりだね」

「それはどうも」

「なんて呼べばいい?」

「お好きにどうぞ」


正直どうでもいい話に適当に相槌を打ちながら歩いていると、あっという間にB組の教室に辿り着いた。


扉を開け、座席表で確認した自分の席に座る。まだ学校に来たばかりなのに、少し疲れてしまった。ぼんやりした花曇りのせいかもしれない。


相変わらずモノクロ写真みたいに味気ない教室を一瞥し、私は小さく息を吐いた。