久遠の果てで、あの約束を。

それともーー。と、そこで彼の目が伏せられた。



「俺と一緒に出かけるのは嫌?」


尖らせた唇。上目遣いの目。

その瞳はまるで捨てられた子犬のようで……。

渚を好きになった女の子達の気持ちが、ほんの少しだけわかった気がした。


要するに、ちょっとドキッとしてしまったのだ。


「別に……、嫌だったらわざわざ休みの日に二人で会ったりなんてしないし、渚がいいなら私はーー」

「本当っ!?」


さっきよりも大きな声と共に勢いよく身を乗り出されたせいで思わず「わっ」と声が出た。


「う、うん」

「よかったぁ。俺、優希に嫌われたらもう生きていけない」

「そんな大げさな……」


「大げさじゃない」


不意に吐かれた言葉に、視界の奥が揺れる。

「……え?」


英語の教材から顔を上げると、思いの外真剣な眼差しが私を捉えていた。

「優希は俺にとって……」


それが笑顔なのかすら危ういくらい曖昧に、渚が笑う。

その続きは、いくら待っても聞けなかった。


「なんてね。さ、宿題の続きしようっと」

なにか言う暇も与えずにノートに視線を落とされて、それ以上のことは訊きたくても訊けなかった。

私も英読解を再開させようとシャーペンを持つと、とある疑問が脳裏を過ぎった。


そういえば私、今まで前もって会う約束をしたことがなかった。


何度か一緒に出かけたことはあるけれど、どれも「今暇?」みたいなノリでサクッと行ってサクッと終わらせていたので、特に甘い雰囲気もなかった。

これは私個人の意見であってその基準はひとそれぞれだと思うけれど、男女が事前に何処かへ行く約束をしていたら、それは立派なデートだと思う。少なくとも私はそうだ。


ということはもしかしてーー。



実質、これが私の初デートになるのでは……?