「あんた、神崎くんとどういう関係?」
消せなかった。
体育が終わり現代文が終わり帰りのホームルームも終わり、よっしゃあやっと帰れるぜと男子が騒いでいる中で、クラス内カーストの頂点に君臨している女子の一人に、
「ちょっといい?」
と体育館倉庫に呼び出されてしまったのだ。
そして運の悪いことに、いつの間にか女子の人数が増えていた。
「ただのクラスメートだけど」
絞り出した声は震えてこそはいなかった。が、それが返って強気で生意気な印象を与えてしまったらしい。
「はぁ?」
女子軍団の顔が歪む。先頭に立っていた女子に突き飛ばされて、コンクリートに尻餅をついた。
「あれだけ馴れ馴れしくしておいて、なにもないなんて言わないわよね?」
なにかあるって言っても怒るくせに。
とは勿論言えない。
非常に情けのないことに、さっきから心臓が凍りついたかのように体が動かないのだ。
要するにビビっている。おいおい、マジかよ私。いくら集団とはいえ、相手は同い年だぞ。
私が黙りこくっているのをいいことに、女子軍団は好き勝手に罵り始める。
「この間まであんなに態度悪かったのに、ちょっと優しくされたくらいですぐ勘違いして馬鹿みたい」
「こんな女につきまとわれる神崎くんが可哀想」
「ちょっと顔がいいからって調子乗んないでよね」
もし私が宮野さんみたいな愛嬌溢れる人気者だったら、ここまで酷くは言われないんだろうなぁと何処か他人事に思いながら立ち上がる。
心の中では厚化粧の性悪女といくらでも悪態をつけるのに、恐怖のせいで声が出ない。出てきたとしても「あ」だとか「う」だとか、そんなか細い呟きだけ。
「今度はだんまり?本当感じ悪い。……ねぇ、聞いてんの?」
結んだ唇を一向に開こうとしない私に苛立った一人に凄まれる。怯んだのを悟られないように、右手をぎゅっと握り締めた。
私を呼び出した少女が手を振り上げ、煌びやかなネイルを施した爪がちらりと覗く。
覚悟した痛みが頬に走る、その寸前。

