いつもより暗い朝の教室に、渚は見当たらなかった。


また寝過ごしたのかと思ったけれど、ホームルームが始まっても、渚が学校に来ることはなかった。

寝坊はしても、今まで遅刻したことはない。


「先生、渚は今日休みですか?」

「さあな。そんなことより、早く授業の準備をしろ」

流石に気になって先生に訊いてみたものの、何故かはぐらかされてしまった。

一時間目も二時間目もその次も、渚は来ない。


結局渚が登校したのは、昼休みになってからだ。

「お前来るの遅くね?」

「どんだけ寝坊したんだよ」

クラスメートの声に振り返ると、ようやく彼が教室に入ってきたところだった。


「どうしたの?」

小さく訊くと、これまた小さな声で、

「定期検診」

と返された。

その返事に、先生が回答をはぐらかした理由を察した。


本人があまりにも元気なので時々忘れそうになるけれど、渚は命に関わるほどの重病で、二年生に進級することなく死んでしまう。


だから、定期的に病院で検査をするのは当たり前。


そのはずなのに、喉に小骨がつかえたような違和感が、頭の中に引っかかった。