私の母は、しつけに厳しい人だった。

世の中は結果が全て、外面さえよければそれでいい。失敗は決して許されない。病気レベルの完璧主義者。


優等生でいること、それが私の義務だった。


少しでも母の言いつけを破ると、何時間も怒鳴られた。


どうして言うことが聞けないの。

どうして一番になれないの。


勿論、最大限の努力はした。期待に応えられるよう頑張った。

でも、駄目だった。

そうやって日々を過ごしてるうちに、日常が灰色になっていった。



そして、小学四年生の母の日。


私は近所の花屋に、お母さんにあげるカーネーションを買いに行っていた。


お母さん、喜んでくれるといいな。


期待に胸を膨らませる私を待っていたのは、抜け殻になった家だった。


置き手紙ひとつないテーブルを見て、昨日母に「もういい」と言われたのを思い出した。


それは、私になにも期待しないということ。

それは、私を完全に見捨てたということ。

その日以来、母とは一度も会っていない。

父に何度も電話したけれど、娘に興味がないあの人が、電話に出ることはなかった。


それからはもう地獄だった。


来る日も来る日も、悪夢にうなされては涙を流し、真っ暗な絶望と深い孤独を味わった。

嘆くことも出来ない闇の中、自分の顔が嫌いになった。


勉強も運動も一番になれない私だけど、顔だけはあの母ですら認めるくらい綺麗に整っていた。

いくら周囲の人間に褒められて羨ましがられても、そんなものには一円の価値すら見いだせなかった。

今思えば、かなり贅沢な悩みだ。