「……」

やばい。こいつの名前、なんだっけ。


中学時代は一週間もあればクラスメート全員の顔と名前を一致させられたのに、今は三分の一程度しか覚えていない。白村だっけ。島田だっけ。


「あんたに関係ないでしょう」

結局思い出せなかったので、名前で呼ぶことは諦めた。

「関係ないけど、恵理には心配かけんな」

ごもっともな意見だけど、恵理という呼び方が引っかかった。


わざわざ下の名前で呼ぶのは、昔からの仲だからなのか。あるいは牽制のためなのか。


このしなんとか、宮野さんが好きなんだろうな。


あからさまな敵意をぶつけてくるのは、自分が想いを寄せている人をぞんざいに扱う私のことが気に食わないから。


特に根拠のない女の勘だけど、そう考えれば全て合点がいく。


「おい、聞いてんのかよ」


しなんとかがわざわざ私の隣に座る。条件反射でスペースを開ける。

普通、自分を嫌っている相手が無遠慮に隣に座ってきたりしたら、誰だって不快になるだろう。

渚や宮野さんと出会って間もない頃は面倒だと感じたり、苛つくこともあったけれど、ここまで嫌悪感を抱きはしなかった。


というか、どうして嫌いな相手の隣に座ったりするんだろう。嫌がらせ?



こいつと一緒にいるくらいなら、教室で授業を受けた方がまだマシだろう。いくらか具合も落ち着いてきたし、この調子なら大丈夫そうだ。


「何処行くんだよ」

「教室」

冷たさ全開で答える。

「気分悪いなら、ここにいりゃあいいじゃん」