久遠の果てで、あの約束を。

刹那、辺り一体に強い風が吹き抜けた。



「きゃっ……」


慌てて髪とスカートを手で抑える。ビュウッと勢いのいい音がして、辛うじて目を開けて見ると、誰もいない空の下、ひらひらと白い鳩のようなものが風に乗って泳いでいた。

その姿にぼうっとして、次の瞬間、ハッとして鞄から落ちたそれを拾い上げた。幸いにも汚れは見当たらない。

ほっと息を吐いて、ずっとお守り代わりに持ち歩いていたそれを見つめる。

真っ白な封筒に描かれた、パステルカラーのガーランド。

これは、渚が亡くなってすぐに受け取ったものだ。


ーー渚に頼まれていたの。もしも自分になにかあったら、これを貴方に渡してくれって。


目を真っ赤にした渚のお母さんから、この手紙を渡された。

本当は、すぐにでも読んでしまいたかった。

でも、怖くてできなかった。

きっとこの手紙を読んでしまったら、全てが終わってしまうから。

渚と過ごしたあの一年間が、綺麗な想い出と化してしまうのが嫌だった。

貴方とのことだけは、幾つになっても想い出とは呼びたくない。

でもそうやって、たった一人で傷を背負って生きていくことは、本当に正しいことなのだろうか。

渚はそれを、私に望んでいるのだろうか。

呼吸を止めて、そっと封を剥がす。


ずっと、読むことが叶わなかった。

だけど、もう十年だ。

いい加減、前に進まないといけない。


二つ折りにされた便箋をゆっくりと開き、その中身を露わにする。

控えめに入った水彩風のガーラント模様。何処か外国っぽさを感じさせるその柄が、渚の最期の想いを縁取っている。


手紙には、こう書かれていた。