ひゅっと、心臓を殴られたみたいに呼吸が止まる。

それと同時に、いくつもの映像が頭に流れ込んでくる。


母の日。赤いカーネーション。誰もいない家。

どうして貴方はできないの。本当に駄目な子ね。もっと上を目指しなさい。



もういいわ。


「ーーっ」

視界がどんどん歪んでいく。息が上手くできなくなる。

浅くて深い過呼吸の中、記憶の中の私は馬鹿みたいに許しを請いていた。


お母さん。ごめんなさい。次はもっと頑張るから。絶対に一番になってみせるから。だからお願い。私を見捨てないで。一人にしないで。

もういいなんて、言わないで。


「優希ちゃんっ!? 大丈夫?」

宮野さんの驚いたような声が遠い。ほら、ちゃんと返事をしないと。大丈夫。なんでもない。びっくりさせちゃったよね。ごめんね。じゃないとまた、もういいって言われちゃう。


「……ごめん。気分悪いから、保健室行ってくる」


なんとか気を取り直して、芝生から腰を上げる。足元がふらついているのには、気がつかないふりをした。


「あ、気分悪いなら私付き添……」

「大丈夫」

まだおぼつかない足取りで、私はその場を後にした。