あれから、幾年もの月日が流れた。


「ふぅ……」


一応は春のはずなのに、坂を登ってきたせいか、ほんの少し体が汗ばんでいる。

小高い丘の上に立ち、辺りを見回す。

晴れやかな青空に、周囲を覆う濃い緑。その緑の中で、朝露に濡れた透明なサンカヨウが、陽の光に照らされて瑞々しく輝いていた。


ここから見える景色はいつも、笑ってしまうくらいに優しくて、そして平和だ。



「久しぶり、渚」



私はひらりと手を振って、墓石に向かって微笑んだ。


「あれからもう十年かぁ。あっという間だったよね」



あの日の夜、海に行った後のこと。


眠りの底を漂っていた私は、突然鳴り響いたスマホの着信音によって起こされた。

何事かと思うよりも前に嫌な胸騒ぎに襲われて、着信相手を確かめもせずに通話ボタンを押した。

目を擦りながら出た電話は、渚のお母さんからのものだった。