渚の様子を窺うと、彼は少し俯き加減に目を伏せた後、遠い目をしてこう言った。



「じゃあさ、優希は今、幸せ?」



穏やかや波が、すぐそこの足元まで迫り来る。


「幸せだよ。渚は?」

「俺も幸せ、かな」


嘘をついた。


確かに、渚と過ごしたこの一年間は幸せだった。

ひとつひとつの想い出が、パズルのように合わさって。

その欠片は僅かな光にも反射して、きらきらと透き通り輝いている。


でも、ひとつだけ欠片が足りなくて。


渚もこのことに気づいていて、だからなにも言わないのだ。

なにか会話の種はないかと必死に思考を巡らせて、ようやく見つけて口にしても、すぐに沈黙が戻ってしまう。

すぐ隣にいるはずなのに、見えない壁に遮られて、ずっと遠くにいるようにすら感じる。


痛かった。


続かない会話が、交わらない視線が、触れられない手のひらが。


この時間に永遠が保障されていないことが。

明日が来るのかどうかすらもわからなくて、世界中の何処にも逃げ場なんてなくて。



運命は意地悪だ。


誰彼構わず牙を向き、いとも簡単に永遠という名の最後の欠片を奪い取る。