マジか。こいつマジか。



「だから今年は一個も貰ってないんだけどなー。でも残念だなー。作ってきてないのかー」


わざとらしく肩を竦めてみせたかと思うと、急ににまーっと笑って再び右手を突き出した。


「で、本当は?」

「……作ってきた」



完全敗北。私の負けだ。


しぶしぶ机の横にかけた鞄の中をまさぐって、その手に純白の箱を乗せた。



「全く。最初から素直に渡せばいいのに」


受け取ってすぐに渚がリボンを解こうとしたので、私は慌てて制止した。


「ちょっと待って。ここで開けるの?」

「ん? うん」



いや、そんな、なにか問題でも? みたいな顔されてもさ。


「ここで開けないで。家帰ってから食べて。後、ホワイトデーのお返しもいらないから」

「えっ、なんで?」

「なんでも!」


ただでさえチョコひとつ渡すだけでこんなにも苦戦したというのに、目の前で食べられでもしたらたまったもんじゃないし、お返しなんて貰った暁には恥ずかし過ぎて普通に死ぬ。



「まぁいいや。ところで、メッセージカードのこれって一体どういう意味? てか何語? 全然読めないんだけど」


「フランス語」


「フランス語!? で、結局なんて読むのこれ。てかなんでフランス語?」


「教えなーい」


「だからなんで!?」



リボンの下に挟んでおいた、金色の縁取りがされた高級感のあるメッセージカード。筆記体で書いた文字には、チョコレートに込めきれなかった心が詰まっている。



だけど、絶対に教えてなんかあげない。


しげしげとカードを見つめる渚を横目に、私はこっそりとほくそ笑んだ。






Je te souhaite beaucoup de bonheur


〝貴方の幸せを祈ります〟