「おーいそこの日直二人、ちょっと頼みたいことがあるんだがー?」


担任の粗雑そうな声。今日の日直は、私と渚。


まさかここで二人きりになる機会が訪れるなんて、一体誰が想像できようか。


担任から告げられた業務内容は、明日配布予定のプリントをホチキス留めするというものだった。

普段の私なら面倒くさがって内心で愚痴をこぼしながら適当にささっと終わらせるところだが、今回ばかりはありがたいことこの上ない。ありがとう先生。いや先生様。

上機嫌な私とは対照的に、渚は不貞腐れながらやる気のなさそうな手つきで作業をこなしている。その進捗状況は、私の半分も進んでいない。

「いくらなんでも多過ぎでしょ。いつ終わんのこれ」

ぱらりとプリントを一枚捲って、げんなりしたようにため息をつく。

「気持ちはわかるけどしかたないでしょ。口じゃなくて手を動かして。じゃないといつまで経っても帰れないよ」


満足のいく回答が得られなかったからか、少しむっとした顔でこちらを見た後、なにか面白いことでも考えついたみたいにあからさまに声をあげた。


「あーあ、俺疲れたなぁ。なーんか甘いものが食べたいなぁ」


そのままにっこりと微笑んで、右手を目の前に差し出された。



「俺に渡すもの、あるでしょ」



嫌味なほど整った顔面が今はとても憎たらしくて、私の中の天邪鬼な一面が、ひょっこりと表に顔を出した。