「樹? それならもう登校前に渡したけど」

こてんと首を傾げながら言われたので、とりあえずは安心した。

それにしても、このあまりにも意識されていない感、いい加減どうにかならないのだろうか。

ここまで来ると、一周回って可哀想に思えてくる。

まぁそれはひとまず置いておくとして、どうにかタイミングを見つけて渚にチョコを渡さなければ。

でないと、全てが無駄になってしまう。

ということで気を取り直してタイミングを見計らい、どさくさに紛れてそっとチョコを机の中に忍ばせる。

ーーその予定だった。


十分休みも昼休みも女子の群れの中心は、意中の相手のために用意したと思われる大量の紙袋やら箱やらをちらつかせていた。

渚の顔は人影に隠れてよく見えなかったけれど、どうせ満更でもなさそうに笑っていたのだろう。

想像するだけで腹が立ち、授業中に何度シャーペンの芯を折ったことか。


あるだけのチャンスを全部逃し、気がつけば時刻は放課後へ。

結局チョコはまだ手元にあって、渚は相も変わらず女子にマーキングされている。

いっそのこと家のポストにでも入れておくべきか? と本気で悩み始めたとき、思いもよらぬところから最後のチャンスが授けられた。