「ありがと。はい、じゃあこれは私から!」


その言葉と同時に、ミントブルーのファンシーな紙袋を受け取った。中を見ると、粉砂糖と切った苺で飾られた濃厚なガトーショコラが入っていた。朝ご飯はちゃんと食べてきたはずなのに、見ているだけでお腹が空いてくる。

「そういえば、篠原の分は用意したの?」

意外なことこの上ないが、篠原も結構女子にモテる。

とは言っても彼を想う女の子達は恵理ちゃんの存在とその奥手さ故に胸に灯した恋心を打ち明けることはなく、当の本人にその自覚はない。

けれど、今日はバレンタインなのだ。

義理にかこつけて想いを込めたチョコレートを贈る子だっているかもしれないし、もしかしたら告白される可能性だってある。


まぁ、どうせあいつは断るだろうけれど。



なんてったってあの篠原だ。本命のチョコをいくつ貰ったとしても、きっと恵理ちゃんから受け取るたったひとつを待ちわびているに違いない。……どこかの誰かさんと違って。


だから密かに心配していたのだが、どうやらそれは杞憂だったらしい。