私がしでかした重大なミスを挙げるとするならばそれは、渚が女子にモテるということをすっかり忘れていたことだろう。

多くの女の子に囲まれて、多分その女の子達が手に持っているのは可愛らしく包装されたチョコレートで、あの場に乗り込んでいく勇気は持ち合わせていなかった。

おそらく、机や靴箱の中にも入っていたのだろう。

バレンタインとかいう俗っぽいイベントなんて全く関心ありませんという顔を装って、机の上で雑誌を広げている自分が本当に情けない。


「優希ちゃん、ハッピーバレンタイン!」

ぼんやりとした思考が破られ、ゆっくりと顔を上げると、この時期限定のコフレであるショコラブラウンのアイシャドウとラズベリーレッドのリップ、それとローズピンク色のチークでおめかしした恵理ちゃんが。ふっくらした唇をほころばせてにっこりと笑っていた。

言われなくとも彼女の目的はわかっていたので、鞄の中から友チョコ用の包みを取り出して手渡した。ピンク色が渦巻く異様な空間の中でも特に大量のハートが飛び交っているあの一帯はできるだけ見ないようにして。