「わぁ……」




そこに広がっていたのは、地面を覆い尽くすネモフィラ畑だった。


澄みきった空の色と、爽やかな水色の花。


それは、上も下も空と呼ぶのにふさわしい眺めだった。


ネモフィラという花がこの世に存在していることは知っていたし、写真でその姿を見たこともある。



けれど、実物はそれ以上に美しかった。


花だけじゃない、空の色もだ。


空はただ青いだけのものだと、ずっとそう思い込んでいた。

空がこんなに綺麗な色をしているということを、私はずっと知らなかった。

知ろうともしなかった。

初めて知った空の色は今まで見ていた色よりもずっと明るくて優しくて、とても愛おしいものだった。


不意に、先月のことを思い出した。

あの時の渚は、私に優しい奇跡をくれた。

そして今度は、今まで知らなかった本当の空の色を、私だけに教えてくれた。


「ありがとう」


その声が彼に届いたのかはわからない。

でも、どうしても伝えたくて仕方がなかった。


もし少し前にこの光景を見ていたとしても、私はなんとも思わなかっただろう。

だけど今の私は、きらきらした星屑みたいな想いに包まれている。

あのときもそうだった。


こうやってどんどんと、忘れたくない大切な想い出が増えていって、空っぽだった心に積もっていく。


このまま時間が止まってしまえばいいのにと、私は心からそう願った。