「冷たっ! それもう氷じゃん。手凍っちゃってんじゃん。頬だって赤くなってるし……、嫌がらせ?」

「別に。ほら行こう? 急がないと遅刻しちゃう」


三学期が始まってからというもの、私は毎日登校前に渚を迎えに行っている。

本当は待ち合わせにした方が楽なのだけど、渚が毎度毎度朝寝坊で遅れてくるので諦めた。

ここ数日間に積もった雪がしっかりと残っていてくれたおかげで、通学路一面は底冷えするような銀白色に輝いていた。冬特有の清澄な空気には微かに水の匂いがして、雪明かりも相まって、空はきりりと澄んでいる。

清々しい早朝の中、私は密かに、これからのことを考えていた。

これまであっという間に過ぎていった春も夏も秋もどれもとても美しくて、それは冬も同じだった。

こんなにも綺麗なものばかりを見続けていたら、どんどん欲深くなってしまったらしい。


新たな季節を、渚と一緒に見てみたい。


なんて、そんな最低なことを願ってしまって。

「優希? どうしたのぼーっとして」

「ううん、なんでもない。ちょっと考えごとしてて」

「ふーん。そういえば、最近機嫌いいよね。なんかいいことでもあった?」

「へへっ、なーいしょ」


一瞬、お母さんとのことが脳裏を過ぎったけれど、話せば長くなってしまうので適当にはぐらかした。

バス停の目の前を通り過ぎたとき、ふと、あの教会はどうなったのか気になった。


あの男の子と初めて出逢った場所。私の原点。想い出の地。


まだ、あの場所に残っているのだろうか。


あの島に行くのにはそれほど時間はかからないし、確かめようと思えば確かめることはできるけれど、当分はその姿を目に焼きつける気にはなれなかった。



だって、そんなものを見てしまったら、きっと私は泣いてしまうから。