「えー、本当かなぁ。隠さなくてもいいのにー」

「だからー、本当にそんな人いないって!」

「優希ももう高校生だもんねー。いい人の一人や二人いるよねー」

「さっきからいないって言ってるじゃん! ていうか、二人はまずいでしょ」


私は渚一筋だし……。

恥ずかしくて絶対に言えない本音が声に出ていたとわかったのは、お母さんの笑顔が深くなってからだ。

気づいたところで時すでに遅し。慌てて両手で口を塞いだところで、言ったことは取り消せない。


「ねぇねぇ。渚くんって誰? 同じクラスの男の子? ひょっとして、その子のことをお願いしてたの?」

「いやっ、だからその……。違うって! 誤解だよ!」

「渚くんってどんな男の子なの? どんな風に知り合ったの? 優希は渚くんのどんなところをーー」

「あーもうわかったから! 言うよ言いますよ! 言えばいいんでしょっ!?」

結局根負けしてしまい、洗いざらい白状させられた。流石に病気のことは言えなかったけれど、ほとんど全部吐いたと言っても過言ではない。

中高生の女の子よろしく私の恋バナにきゃっきゃとはしゃいでいたお母さんは、帰りの時間が近づくにつれてそのエネルギーを失っていった。



午後になり、段々と空気が日暮れの色を帯びていって、帰りのフェリーが迫ってきたときにはもう、さっきまでの覇気はもう過去のものとなっていた。


「次は……、いつ会ってくれる?」

西陽に照らされた横顔が想像よりずっと寂しげに見えて、このときになってようやく私は、ちゃんとお母さんに愛されて育ってきたのだと実感した。


「いつでも。お母さんの会いたいときに」


そう宣言したときのお母さんの顔を、私は一生忘れない。