「…………」



……着いてしまった。


いや、最初からここに来るつもりだったのだから着くのは当たり前なのだが。

どうしよう、もっとゆっくり歩くべきだったか。

今更ながら手が震える。冷や汗が止まらなくなって、息をするのもままならない。

自分がこんなにも弱いだなんてしらなかった。否、知らないままでいようとした。傷つくことを恐れて、わざと鳥籠に鍵をかけて閉じこもった。


でも、それももう今日で終わりにするんだ。


三二一でいこう。三つ数えたらインターホンを押そう。三秒の間に覚悟を決める。


「三……、二……、一……」

意を決して、インターホンを指で押す。ピーンポーンとこちらの心情などまるで気にしていないかのような間抜けな音が響き渡った。

地に足を強くつけたまましばらく待つ。しかし、いつまで経っても古ぼけた引き戸が開くことはなかった。

もしかしたら、出かけているのかもしれない。

まだ三が日の真っ只中だし、初詣に行ったという可能性もある。

仕方ない。今回は諦めて、また出直そう。

留守にしているという可能性を微塵も疑わずに踵を返そうとしたその瞬間、ようやく引き戸が音を立てた。

まさかこのタイミングで開くとは夢にも思っていなかったので、振り返った姿勢のまま固まった。

それは向こうも同じだったみたいで、目を丸くして随分と驚いている。

慎ましやかなやつでの着物に、白いたっぷりとした髪をひとつに結い上げた女性。


「久しぶり、お祖母ちゃん」

私はとりあえずへらりと笑って、ショルダーバッグを肩にかけ直したのだった。