当の本人はそれはそれは楽しそうにけらけらと笑っていて、最初からこのつもりだったのだとすぐにわかった。

篠原はというと、少し顔を赤らめて口をパクパクとさせた後、大股で恵理ちゃんに詰め寄った。


「お前なぁ!」

「まぁまぁ落ち着いてよ、樹クン」

「落ち着けるわけあるかっ!」


もの凄い形相でまくし立てる篠原と、両手を胸の前にしてバリケードを作る恵理ちゃん。当人には大変申し訳ないけれど、見ている側としてはとても面白い。


「大体、なんでこいつがいるんだよっ」


人差し指で私を指し示しながら、爪楊枝が挟めそうなくらいに眉間の皺を深くさせる。怒っているのはわかったからさ、とりあえず人に指を差すのはやめようよ。

「さっきまで優希ちゃんと私の家で遊んでて、優希ちゃんが樹の家行ったことないって言ってたから連れてきたの。別に悪いことしてる訳じゃないんだからいいでしょ? ていうか、このお店寒くない?」

苦笑いを強気な表情に変え、言い訳ついでに室内温度にクレームをつける恵理ちゃん。彼女の部屋事情をよく知っている篠原は、同情の面持ちで私の肩をポンと叩いた。きっと彼も、幾度となくあの部屋で季節外れの熱中症になりかけたのだろう。

「馬鹿、花はお前と違って繊細なんだよ。つーかお前ら、ここに来たんならなんか買ってけよ」

すっかり気を取り直して通常運転に戻ったのか、花屋の息子らしく花を買うよう催促してくる。

恵理ちゃんがカラフルな花色のカランコエを選んだので、私も少し考えて、香り高くひんやりした水仙を手に取った。