結び終わって、離れていく体温にほんの僅かな名残惜しさを感じていると、両の手が自分のものではない手のひらに包まれた。

思いの外真剣な眼差しに、息が止まる。

まるでガラス細工でも扱うかのような優しい手つきで私の手をすくい取り、彼は言った。


「優希、よく聞いて」


その瞬間、気づいてしまった。

瞳の奥にある小さな絶望に。


「嫌だ」


意図していなかったことばが、ぽろりと口からこぼれ出る。


だって、きっとその話は、決して明るいものではないから。

この幸せの終焉を、思い起こさせるものだから。


「聞きたくない」

「聞いて」

「嫌だ」

「聞けって」

「嫌だっ!」


小さな子供がぐずるみたいに、ただ同じ言葉を繰り返す。


ぐいっと手が引っ張られ、無理矢理にも視線を合わせられる。一回り大きな渚の手が、私を捕らえて離さない。



「聞いて、大事な話だから」


抵抗するのを忘れたのは、瞳の奥の絶望の代わりに、慈愛の色が満ちていたから。


イルミネーションの光も街のざわめきも、全てが一気に遠のいて、少し赤くなった顔と何処か必死そうな双眸に目が離せなくなる。


触れられた手から頬へと熱が伝わって、そのせいで他になにも考えられなくなって、ただただ次の言葉を待つしかなかった。