「待って」
背を向けた先のベッドから伸びた腕が、私の指先を掴んだから。
「まだ行かないで。もうちょっとだけでいいから、ここにいて」
飾り気のない声は酷く潤んでいて、その手だって振り解こうと思えば簡単に振り解けるのに、身動きひとつ取れずにその場に立ち尽くす。
そして、気がついた。
渚は、私なんかよりもずっと死の恐怖に怯えている。
今までたった一人で、その恐怖に耐えてきた。
私は少しだけ微笑んで、ベッドの端に腰掛ける。すると渚は寝そべったまま遠慮がちにこちらにすり寄って、そのままゆっくりと目を閉じた。
やがて小さな寝息が聞こえてくるまでの間、ずっとそのまま傍にいた。

