お互いなにも言葉を発しないで歩いていくうちに、自宅の屋根が見えてきた。ここまでで大丈夫だから。そう言うよりも数秒先に渚が立ち止まり、再びこちらを振り向いた。



「あのさっーー」


心なしか、目元が赤いように見えた。


続きの言葉を待つまでの間、夜が滲んでいく間。私は必死に、頭を働かせていた。

きっと渚はなにかを待っていて、私もなにかを伝えようと探していて、だけどかけるべき言葉がなにも見つからない。


「ううん。なんでもない」


渚が口を噤んだ瞬間、やるせなさがもやもやと襲いかかってきた。今更なにを言おうとも、そんなのはもう手遅れで。

だから私はやるせない気持ちに蓋をして、無理矢理にでも笑顔を作った。



「じゃあ、またね。送ってくれてありがとう」


玄関の扉に手をかけて、ひらりと手を振った途端、該当の灯りがゆらりと遠く揺れたのは、きっと見間違いだろう。