「実はな、お母さんは優希が産まれる前に一度別の人と結婚していて、元旦那の不倫が原因で離婚したんだ。しかも、その不倫相手は子供を身篭っていたらしくてな。それで、元旦那と不倫相手を見返すために、必要以上に厳しくしてしまっていたのだと言っていた。よその女に産ませた子供よりも、優秀な子になるようにと」


今まで知らなかった事実に、全身が固くこわばる。与えられた情報量が多過ぎて、頭が上手く回らない。


「俺はその事を知っていたにも関わらず、ずっと仕事にかまけて優希を放ったらかしにしてしまっていた。しっかりした子だからと、高を括っていたんだろう。謝って済む問題ではないが、本当にすまなかった」

深々と頭を下げられてしまい、たじろいた。思わず顔を顰めそうになり、苛立ちに心臓が抉られる。お父さんに対してじゃない。自分自身に対してだ。

どんな理由があろうとも、未成年の娘を一人置き去りにするのは流石にどうかと思うけれど、話し合おうともせずに悲劇のヒロインを気取っていた私が偉そうに言えることじゃない。

被害者ぶったところで何も変わらないと知っていたのに、黙っていた私も私だ。


「ううん……。もう、いいの」


言ってからハッと思い出した。あのときに言われた「もういい」の言葉。あの言葉には、解放の意味があったんじゃないか。

もう、私のせいで苦しまなくていい。あの残酷な一言の裏には、罪悪感に耐えられなくなったお母さんの不器用な優しさが隠れていたのではないか。


そんなものは、都合のいい白昼夢に過ぎないのかもしれないけれどーー。


脆弱な期待を胸に抱いて、頭を上げたお父さんと、久しぶりに目を合わせた。