久遠の果てで、あの約束を。

コオロギや鈴虫が合唱祭を開いている神去月の夜、お父さんは帰ってきた。


普段は鍵を開ける音がしただけですぐに自室に避難していたけれど、今回はそういう訳にはいかない。

私には、まだやらなくちゃいけないことがある。

拒絶反応を示す足に鞭打って、まだ玄関先にいるであろうお父さんの元へ歩く。


「あの、この間のことなんだけど」

じろりと、無愛想な双眸が私を捉える。その目つきに妙な既視感を覚えて軽く過去を振り返ったのち、それが鏡で見た以前の私によく似ているからだと気がついた。

母親似だとよく親戚に言われてきたが、こういうところは父親に似たのだ。

刃物のような鋭い視線に怖気づかないように、慎重に言葉を選びながら口を開く。


「お母さんのことはまだ許せそうにないし、そもそも怒ってる訳じゃない。だけど、今会うのは無理でも、私がもう少し大人になったら、また会いたいって思えるようになったら、そのときは自分で会いに行くって、お母さんに伝えてくれる?」

いつ会いたいと思えるようになるのかは正直わからないし、もしかしたら何年も後になるかもしれない。

でも、まだやり直しがきくのなら、いつかまた家族に戻れるのなら、その一縷の望みに賭けてみたい。


お父さんはと言うと、顎に手を添えてなにか思案するような素振りを見せた後、「わかった」と頷いてくれた。

ホッと安心したのもつかの間、お父さんがなにか言おうと口を開き、背筋に一本の緊張が走る。