彼は、本当にあと一年で死んでしまうらしい。


彼が患っている病気は世にも珍しいもので、普段は身体の奥に身を潜めているものの、たったひとつの発作が死に直結してしまう程重くのしかかってくる。

いくつかの薬で症状を抑えているから、今のところは日常生活に大きな支障はなく、病気だとは気づかれにくい。


そのことを、いつも通りの声と表情で教えてくれた。

「優希はさ、死ぬまでにどうしてもやりたいことってある?」


私達は、お互いを名前で呼び合うようになっていた。

「いまいちピンとこないなぁ。渚は?」

「俺はね、誰かを心から笑わせたい」


聞き返すと、迷いのない眼差しではっきりと告げられた。

渚曰く、この前までの私は人形みたいに無表情で目つきが悪く、他人を寄せつけないオーラを放っていたのだとか。


そんな私だけど、今は以前よりも笑うことが増えてきた。

あの日、桜の花びらを降らせてくれたあの日から、私の中でなにかが変わった。一日一日がきらきらしている。


世界がこんなに綺麗だということを、生まれて初めて実感した。


そんなある日、歯車が小さく音を立てた。