ザァ。と、わざとらしい桜吹雪が辺りを遮る。


時間が、止まってしまったように感じた。

ちゅんちゅんと小鳥がさえずっている空間で、無邪気に笑う彼の視線がぶつかる。


多分、私は試されているんだ。嘘だとしても本当だとしても頓珍漢としか言いようのない笑顔で告げられた言葉を、私がどう受け止めるのか。



さて、どう答えるべきか。


これが嘘か本当かを見抜くのは、私には不可能だ。

正直とてもではないが病人には見えないし、少し遅めのエイプリルフールという可能性も充分にあり得る。

だけど、ここで嘘をつく理由がわからない。


「そういうのって、大体の人はギリギリまで隠すものなんじゃないの?」

思案の末に出した返答は、もし本当の話であれば最低だと罵られて当然の台詞。ここだけの話、自分でもそれはないだろうと言ってから思った。


余程気に障ったのか、制服の袖越しから伝わってくる彼の手の感触と体温が、心なしか微かに震えている。


怖いくらいの沈黙が流れたのち、するりと、私の腕が彼の手から解放された。


「それもそうだね」

と同時に、ポケットになにかが滑り込む。

「気が向いたら、また話し相手になってよ」


どうやら、これが模範解答だったらしい。

またね。と手を振られたので、私は彼に背を向けてその場を後にした。


ポケットに入れられた紙切れには、彼の連絡先が入っていた。