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ピピピピピピピピピピピピ・・・・・・・
「うーん・・・」
ベッドから手を伸ばしてなんとかアラームを止める。いつもならまた三十分くらいの二度寝ができる・・・。そう思って時計を見ると、現時刻、七時。完全に遅刻だ。素早くベッドから飛び降り、部屋着を脱ぎ捨てて制服を引っ張り出す。ワイシャツのボタンを一つずつ留めて・・・。あれ?一つ足りない。ボタンが。もしかして急ぎすぎて取れた?ふと鏡を見るとなんでボタンがないのかを一瞬にして理解した。
「んもう!!なんで掛け違えてんの、こんな時に!」
今度は一つ一つ確認しながらボタンを留め、スカートをはき、やっとのことで着替えを済ませたら次は髪の毛だ。いつもは髪を巻いて、高い位置で一つに結んでいるのだが、今日はそんな時間は無い。
「下ろすしかないか」
くしで髪を梳かして整えたら、かばんを持って家を出るだけだ。しかし、お母さんに捕まってしまった。
「こんなに遅くていいの?」
「お母さんこそ、起こしてくれなかったくせに」
「はぁ?何回も起こしたわよ。美波が起きなかったんでしょ。ま、いいわ。早く行きなさい」
「はぁい。いま何分?」
「七時半。遅刻ね」
「そんなの分かってるよ、言われなくても。じゃあ行くね」
「いってらしゃい」
「行ってきます」
七時半・・・。急げば四十五分の電車に間に合うはず。よし、走ろう。冷たい風が顔と足に容赦なくぶつかってきたが、そんな事は気にせずに走った。
「ま、間に合った・・・」
深呼吸をして乱れた呼吸を整える。もしかしたら、人生で一番速く走ったかもしれない。しばらくして電車が来た。登校・通勤ラッシュの時間を過ぎたためか、電車内はがらんとしていた。一番ドアに近い席に座り、やっと落ち着くことができた。私はそのまま、目を閉じて静かな空間に耳を澄ませた。
「佐倉、おい、起きろって」
声が聞こえるのと同時に体を揺すぶられる。重いまぶたを開けると目の前に見たことのある顔があった。
「や、山本くん!?」
「やっと起きた。いつまで寝てんの。ほら、降りるよ」
「え?あ、うん」
彼に引っ張られて電車を降りると見慣れた景色が広がっていた。まさか、寝過ごそうとしたのを起こして防いでくれた?あ、お礼言わなきゃ。
「山本くん」
「ん?何?」
「その・・・ありがとう。起こしてくれて」
「え?いいのに、別に。まぁ起こしたくなかった気持ちもあったけど」
「・・・は?」
「だってさ、俺が電車乗ったら幸せそうな顔して寝てんだもん。可愛かったなー佐倉の寝顔」
「な、何言ってんの!?可愛いってそんなわけ・・・」
「ある。髪下ろしてんのが更にいい」
真剣な口調で言われて、顔が熱い。ていうか、可愛いとかそんなにさらっと言えるわけ?絶対私の他にも言ってるじゃん・・・。とにかくこのまま学校に一緒に行くのは気まずいから先に行ってもらおう。
「ごめん、私お腹痛くて。だから先行ってくれる?」
「何、お腹痛いの?じゃあおぶってこうか?」
何言ってんのこの人。こんなんじゃもっと大変なことになっちゃうじゃん。
「そ、それはいいかなー。ほら、私重いし。山本くんも荷物、重そうだし」
よし、これならいける。さすがに重いって言われれば諦めるでしょ。
「え?大丈夫。佐倉くらい、余裕だから。ほら、早く乗りな」
な、何で諦めてくれないの・・・。人の気持ちが分からないのか、かなり神経が図太いのか・・・。さすがにおぶってもらうのはかなり恥ずかしいし。・・・一緒に歩いてくしかないか。
「あ、あー!なんか治ってきたかも。自分で歩けそう」
「ほんと?無理してない?」
「うん。大丈夫そう」
「良かった、じゃあ行くかー!」
そう言って彼はにこっと笑った。こんな顔するんだ・・・。
「可愛いな・・・」
ってな、何言っちゃってんの私?今の聞かれてたらやばい・・・。ちらっと彼の方を見ると目が合ってしまい、すぐに顔をそらした。
「あー、明後日から春休みだなぁ。佐倉は?なんかすんの?」
「え?春休み?んー、特に何も無いかなぁ」
「そっか。じゃあ俺と遊ばない?」
「え、山本くんと?あ、じゃあ莉子も呼んでいい?」
「だめ。二人で」
「え・・・」
混乱していると彼の顔が近づいてきてトンと肩に顔をのせられた。
「昨日の返事も聞きたいし?」
昨日・・・。昨日の返事!?それってあの「好きだから」ってやつ?まずい、朝の忙しさで全く覚えてなかった。あれってやっぱり付き合ってっていうことだったの?友だちとしてじゃなくて?そ、そういえば私、昨日山本くんのこと突き飛ばしたんだっけ・・・?
「ご、ごめんなさい!」
「え、それ、返事?俺、ふられた?」
「あ、そうじゃなくて昨日、突き飛ばしちゃってごめんって」
「あ、そのことね。大丈夫。佐倉のか弱い力じゃ俺、びくともしないから。気にしないで」
「ほんとにごめん・・・」
「だからいいって。じゃあ、春休み遊ぼーね。あ、俺ら連絡先交換してないね。日程とか送りたいからさ交換しよ。あと、山本くんじゃなくて蒼でいいから」
なんか話がうまく山本くんにのせられてる気がするんだけど・・・。私、二人で遊ぶのにいいよなんて言ってなくない?やっぱり自分のことしか考えられないんじゃないのこの人。
「佐倉?」
「あ、いいよ」
そんな顔で言われたらいいよって言うしかないじゃん。
そうやって連絡先を交換して色々話しているうちに学校に着いた。
「やっと着いたー」
「あ、山本くん、先行って」
「え、またお腹痛い?あとほんと、蒼って呼んで」
「それはどうでも良くて、そうじゃなくて二人で入っていったら、その・・・女子が怒るから」
「え、女子?」
「もう、いいから行って!」
「分かった、先行くよ。美波」
・・・美波ぃ!?私いいよって言ってないし。もう、そっちが美波って呼ぶならこっちだって蒼って呼んでやる!それより、二人で入って行ったら色々誤解が生まれて蒼のこと好きな女子たちが敵意を向けてくる気がする。そんな事実じゃないことで色々言われることにはしたくない。十分くらい経った後に行こう。
ピコンッ
LINEの通知音が静かな廊下に響き渡る。メッセージを開くと莉子からだった。『何してるの?どこにいるの?』という、心配しているような、怒っているような文だった。『遅刻した。今向かってる』と返信して時計を見る。八時半。もうすぐ一時間目前の十分休みになるから、その時に教室に行こう。階段の手すりに腰掛けて朝の出来事を頭の中で再生する。蒼が笑ったとき、可愛いと思ったのは事実で、もっというと少しだけドキッとしてしまった。でもそれは好きとかじゃなくて、ただイケメンが笑うとドキッてするっていうやつだ。そろそろ休み時間。なるべく音を立てないように階段をのぼる。もうすぐ二階というときにドタドタ足音が聞こえてきてびっくりすると莉子が息を切らしながら走ってきた。そんなに急がなくてもいいのに。
「美波!良かった無事で」
「莉子・・・。そんな大事じゃないから。ただ遅刻して、蒼と一緒に・・・あ」
「あーおーいー?それって山本のことだよね?あれれ、昨日のは友だちとしてじゃなかったってこと?いつ下の名前で呼ぶ仲になったのかなぁ?」
「やっぱり、忘れてなかったんだね。えーと、ちょっと長くなるから、今日はウチ来て」
「え、いいの?わーい久しぶり!!」
そんなことを話しながら教室に向かうと蒼と目が合った。
にこっと笑ったその顔はやっぱり可愛くてドキッとしてしまった。
ピピピピピピピピピピピピ・・・・・・・
「うーん・・・」
ベッドから手を伸ばしてなんとかアラームを止める。いつもならまた三十分くらいの二度寝ができる・・・。そう思って時計を見ると、現時刻、七時。完全に遅刻だ。素早くベッドから飛び降り、部屋着を脱ぎ捨てて制服を引っ張り出す。ワイシャツのボタンを一つずつ留めて・・・。あれ?一つ足りない。ボタンが。もしかして急ぎすぎて取れた?ふと鏡を見るとなんでボタンがないのかを一瞬にして理解した。
「んもう!!なんで掛け違えてんの、こんな時に!」
今度は一つ一つ確認しながらボタンを留め、スカートをはき、やっとのことで着替えを済ませたら次は髪の毛だ。いつもは髪を巻いて、高い位置で一つに結んでいるのだが、今日はそんな時間は無い。
「下ろすしかないか」
くしで髪を梳かして整えたら、かばんを持って家を出るだけだ。しかし、お母さんに捕まってしまった。
「こんなに遅くていいの?」
「お母さんこそ、起こしてくれなかったくせに」
「はぁ?何回も起こしたわよ。美波が起きなかったんでしょ。ま、いいわ。早く行きなさい」
「はぁい。いま何分?」
「七時半。遅刻ね」
「そんなの分かってるよ、言われなくても。じゃあ行くね」
「いってらしゃい」
「行ってきます」
七時半・・・。急げば四十五分の電車に間に合うはず。よし、走ろう。冷たい風が顔と足に容赦なくぶつかってきたが、そんな事は気にせずに走った。
「ま、間に合った・・・」
深呼吸をして乱れた呼吸を整える。もしかしたら、人生で一番速く走ったかもしれない。しばらくして電車が来た。登校・通勤ラッシュの時間を過ぎたためか、電車内はがらんとしていた。一番ドアに近い席に座り、やっと落ち着くことができた。私はそのまま、目を閉じて静かな空間に耳を澄ませた。
「佐倉、おい、起きろって」
声が聞こえるのと同時に体を揺すぶられる。重いまぶたを開けると目の前に見たことのある顔があった。
「や、山本くん!?」
「やっと起きた。いつまで寝てんの。ほら、降りるよ」
「え?あ、うん」
彼に引っ張られて電車を降りると見慣れた景色が広がっていた。まさか、寝過ごそうとしたのを起こして防いでくれた?あ、お礼言わなきゃ。
「山本くん」
「ん?何?」
「その・・・ありがとう。起こしてくれて」
「え?いいのに、別に。まぁ起こしたくなかった気持ちもあったけど」
「・・・は?」
「だってさ、俺が電車乗ったら幸せそうな顔して寝てんだもん。可愛かったなー佐倉の寝顔」
「な、何言ってんの!?可愛いってそんなわけ・・・」
「ある。髪下ろしてんのが更にいい」
真剣な口調で言われて、顔が熱い。ていうか、可愛いとかそんなにさらっと言えるわけ?絶対私の他にも言ってるじゃん・・・。とにかくこのまま学校に一緒に行くのは気まずいから先に行ってもらおう。
「ごめん、私お腹痛くて。だから先行ってくれる?」
「何、お腹痛いの?じゃあおぶってこうか?」
何言ってんのこの人。こんなんじゃもっと大変なことになっちゃうじゃん。
「そ、それはいいかなー。ほら、私重いし。山本くんも荷物、重そうだし」
よし、これならいける。さすがに重いって言われれば諦めるでしょ。
「え?大丈夫。佐倉くらい、余裕だから。ほら、早く乗りな」
な、何で諦めてくれないの・・・。人の気持ちが分からないのか、かなり神経が図太いのか・・・。さすがにおぶってもらうのはかなり恥ずかしいし。・・・一緒に歩いてくしかないか。
「あ、あー!なんか治ってきたかも。自分で歩けそう」
「ほんと?無理してない?」
「うん。大丈夫そう」
「良かった、じゃあ行くかー!」
そう言って彼はにこっと笑った。こんな顔するんだ・・・。
「可愛いな・・・」
ってな、何言っちゃってんの私?今の聞かれてたらやばい・・・。ちらっと彼の方を見ると目が合ってしまい、すぐに顔をそらした。
「あー、明後日から春休みだなぁ。佐倉は?なんかすんの?」
「え?春休み?んー、特に何も無いかなぁ」
「そっか。じゃあ俺と遊ばない?」
「え、山本くんと?あ、じゃあ莉子も呼んでいい?」
「だめ。二人で」
「え・・・」
混乱していると彼の顔が近づいてきてトンと肩に顔をのせられた。
「昨日の返事も聞きたいし?」
昨日・・・。昨日の返事!?それってあの「好きだから」ってやつ?まずい、朝の忙しさで全く覚えてなかった。あれってやっぱり付き合ってっていうことだったの?友だちとしてじゃなくて?そ、そういえば私、昨日山本くんのこと突き飛ばしたんだっけ・・・?
「ご、ごめんなさい!」
「え、それ、返事?俺、ふられた?」
「あ、そうじゃなくて昨日、突き飛ばしちゃってごめんって」
「あ、そのことね。大丈夫。佐倉のか弱い力じゃ俺、びくともしないから。気にしないで」
「ほんとにごめん・・・」
「だからいいって。じゃあ、春休み遊ぼーね。あ、俺ら連絡先交換してないね。日程とか送りたいからさ交換しよ。あと、山本くんじゃなくて蒼でいいから」
なんか話がうまく山本くんにのせられてる気がするんだけど・・・。私、二人で遊ぶのにいいよなんて言ってなくない?やっぱり自分のことしか考えられないんじゃないのこの人。
「佐倉?」
「あ、いいよ」
そんな顔で言われたらいいよって言うしかないじゃん。
そうやって連絡先を交換して色々話しているうちに学校に着いた。
「やっと着いたー」
「あ、山本くん、先行って」
「え、またお腹痛い?あとほんと、蒼って呼んで」
「それはどうでも良くて、そうじゃなくて二人で入っていったら、その・・・女子が怒るから」
「え、女子?」
「もう、いいから行って!」
「分かった、先行くよ。美波」
・・・美波ぃ!?私いいよって言ってないし。もう、そっちが美波って呼ぶならこっちだって蒼って呼んでやる!それより、二人で入って行ったら色々誤解が生まれて蒼のこと好きな女子たちが敵意を向けてくる気がする。そんな事実じゃないことで色々言われることにはしたくない。十分くらい経った後に行こう。
ピコンッ
LINEの通知音が静かな廊下に響き渡る。メッセージを開くと莉子からだった。『何してるの?どこにいるの?』という、心配しているような、怒っているような文だった。『遅刻した。今向かってる』と返信して時計を見る。八時半。もうすぐ一時間目前の十分休みになるから、その時に教室に行こう。階段の手すりに腰掛けて朝の出来事を頭の中で再生する。蒼が笑ったとき、可愛いと思ったのは事実で、もっというと少しだけドキッとしてしまった。でもそれは好きとかじゃなくて、ただイケメンが笑うとドキッてするっていうやつだ。そろそろ休み時間。なるべく音を立てないように階段をのぼる。もうすぐ二階というときにドタドタ足音が聞こえてきてびっくりすると莉子が息を切らしながら走ってきた。そんなに急がなくてもいいのに。
「美波!良かった無事で」
「莉子・・・。そんな大事じゃないから。ただ遅刻して、蒼と一緒に・・・あ」
「あーおーいー?それって山本のことだよね?あれれ、昨日のは友だちとしてじゃなかったってこと?いつ下の名前で呼ぶ仲になったのかなぁ?」
「やっぱり、忘れてなかったんだね。えーと、ちょっと長くなるから、今日はウチ来て」
「え、いいの?わーい久しぶり!!」
そんなことを話しながら教室に向かうと蒼と目が合った。
にこっと笑ったその顔はやっぱり可愛くてドキッとしてしまった。