明日もきみが心から笑えますように

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蒼が死んでから、どのくらい経っただろう。学校に行く気にはとてもじゃないけどなれなくて、ずっと部屋にこもったままだ。
「ピコンッ」
LINEの通知音が鳴る。・・・きっと莉子だろう。
あの日、私を追いかけて来てくれた莉子はほぼ放心状態だった私を家に送ってくれて、お母さんにも何があったのか、説明してくれた。それから毎日、莉子からLINEが来て、心配してくれている。心配をかけてしまっている自分が嫌になって、ご飯もろくに食べていない。そんな毎日を長い間続けていた。
ピンポーン
家のチャイムが鳴る。いつもだったらお母さんが出ているけど、今日は確か仕事に行ってしまった。誰かに会うのには気が引けたが、出ないわけにも行かないので部屋着のまま玄関に向かった。
「はい」
「あ、美波ちゃん?ちょっといいかな」
ドアを開けると、杏花音さんが立っていた。
「あ、どうぞ」
中に入ってもらって、とりあえず麦茶を出すと、「ありがとう」と笑ってくれた。その笑顔が、蒼に似ていて、胸の奥がズキッと痛んだ。
「今日はね、美波ちゃんに読んでもらいたい物があってきたの」
「読んでもらいたい物?」
「うん、この手紙なんだけど。はい、どうぞ」
 杏花音さんから手紙を受け取って開くと、「美波へ」と見覚えのある文字で書かれていた。
 『 美波へ
  こんな形になっちゃってごめん。美波がこれを読んでいるって事は俺はもうこの世にはいないんだよね。・・・美波の事を好きになったのは一年の最初の頃。一目惚れだったんだ。だから、同じ委員会になれたときはすごい嬉しかった。あんまり話しかけられなかったけどね。それで、告白は随分遅くなったけど。一回ふられたときは超ショックだった。顔には出さないようにしたけど。でもさ、ふられてからもずっと好きで、やっぱり諦められなくて。だから、美波から告われたときは夢じゃないかって思った。本当に幸せだった。美波と一番近い距離にいられて。
  一緒に初詣行くっていう約束守れなくてごめん。行きたかったなぁ。別れようって言ったのも俺のわがまま。本当にごめん。って何を今更って感じだよね。ほんとに、最低だ俺。
  最後に、俺のこと好きになってくれてありがとう。ほんとはずっと美波といたかった。こればっかりはしょうがないよね。でも、俺は今でも美波が好きだ。だから、一つ約束して。
    俺がいなくても、ずっと笑っていて。                  蒼 』
 手紙を読み終わった瞬間、私は何をしているんだろう、と思った。蒼がいなくなってからもう何
ヶ月も笑っていない。ただ自分の弱さに目を向けて、逃げているだけだった。
 「美波ちゃん、一度、家に来てくれないかな。蒼も・・・待ってると思うの」
 ほんとは、今すぐ行った方がいいのだろう。でも、こんな自分のままで蒼に会いに行くことなんてできない。だから私はある決心をして、笑顔で答えた。
 「はい。蒼に会えるようになったら、行きます」 
 「うん。待ってるね」
 そう言って杏花音さんは帰って行った。
とりあえず、明日から学校に行こう。部屋に戻ってスマホを取り、莉子に『明日から行くね。心配かけてごめん』と送信して、明日の準備を始めた。そうしないと、蒼に会いには行けない。心から笑えるようになるまでは蒼の家には行かない。そう決めて、私は部屋の空気を入れ換えるために窓を開けた。風が私の髪の毛を揺らす。
久しぶりの外の匂いは、優しく私を励ましてくれるような匂いだった。