明日もきみが心から笑えますように


 それから二ヶ月が経って梅雨の時期になった。今日も外は土砂降りで、朝から憂鬱な気分だった。しかも、今は苦手な世界史の授業だ。それが更に気分を下げる。つまらない授業に飽きてきて窓の外を見ていると、ポケットの中に入っているスマホから着信音が鳴った。
 「おい、誰だー?スマホ鳴ってるぞー」
 先生が怪訝そうな顔をして声を上げた。
 「すみません、私です」
 「佐倉か。ほら、早くでろ」
 「ありがとうございます」
 教室の端に移動して、スマホを取り出す。画面には、「山本蒼」と表示されていた。慌てて出ると、なぜか焦った様子の杏花音さんの声が聞こえてきた。
 「杏花音さん?どうしたんですか?今授業中なんですけど・・・」
 「ご、ごめん。今すぐ、病院に来れる?」
 「え?も、もしかして蒼に何か・・・」
 「そうなの。だから、もし来れたらすぐに・・・」
 「今すぐ行きます!」
 杏花音さんの声を遮ってそう伝えた後、走って教室を飛び出た。
 「佐倉!?」「美波!?」と呼ぶ声が聞こえたが、今は立ち止まっている暇はない。
私は傘も持たずに、土砂降りの雨の中、病院に向かった。
病院に着くと、泣いた後なのか、目が真っ赤になっている杏花音さんが待っていてくれた。蒼の病室に行くと、何人もの先生や看護師さんがベッドを囲んでいた。そのうちの一人の先生が、「最期の言葉をかけてあげて下さい」と言った。杏花音さんを見ると、頷いてくれた。病室にいた先生達も気を遣ってくれたのか、病室から出ていってくれた。二人きりになったところで、私は蒼に話しかけた。
「蒼・・・。私だよ」
「み、美波?来てくれたんだね・・・。ありがとう」
「蒼、寂しかった。蒼に、会いたかった」
「お・・俺も・・・。ずっと、やっぱり今も美波が好きだ」
「私もだよ・・・。ねぇ、最後に抱きしめていい?」
「うん、いいよ」
私は優しく、蒼が苦しくないようにそっと蒼の体に腕を回した。・・・こんなにも温かい。心臓だって動いてる。嫌だ、まだ死なないで。
「み、美波・・・。今まで、ほんとにありが・・・」
言葉が、途切れる。恐る恐る顔を上げると、もう蒼は、息をしていなかった。
「いやぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
私の叫び声を包み隠すように、雨の強さが増す。涙がぽたぽたと蒼の頬に落ちる。既に蒼の体からは体温が失われていて、私を突き放すような冷たさだった。
 六月十八日火曜日、山本蒼は、死んだ。