明日もきみが心から笑えますように

 ⒒
 蒼の誕生日。今日はあの遊園地に行こうと計画していた。私は、蒼との約束通り髪の毛を下ろして、プレゼントをもって家を出た。
 「蒼!」
 「あ、莉子!可愛い!ありがと、最高の誕生日だよ」
 そう言って蒼はにこっと笑った。でもその笑顔に、苦しさが混じっていた気がしたのは気のせいだろうか。少し心配になって蒼を見ると、そんな苦しさは一ミリも感じられない顔で笑っていた。・・・やっぱり、気のせいか。
 「今日はジェットコースターはやめとこうね。また具合悪くなったら嫌だし」
 「ごめん、蒼乗りたいでしょ?」
 「美波と一緒じゃなきゃ楽しくないから」
 優しいな、蒼は。そんなこと言っててもほんとは乗りたいと思うのに・・・。
 すると、蒼が急に立ち止まった。
 「蒼?」
 「うぅ・・・」
 突然苦しそうに、蒼が近くのベンチに座る。
 「あ、蒼!?大丈夫?どっか具合でも悪いんじゃ・・・」
 「・・・大丈夫。たまになるんだ。ちょっとくらっとしただけ」
 「そ、そうなの・・・?」
大丈夫、と言いながら蒼は苦しそうな顔をしている。背中をさすってあげると、蒼は微笑んだ。でも、その顔には悲しみと苦しみも混ざっている気がした。
 やっぱり、今日の蒼はどこかおかしい。蒼の背中をさすりながら、そう感じた。
 「ありがと、そろそろ大丈夫かも」
 「ほんと?」
 「ほんと。美波見てると元気出てくるから」
 無理してなきゃ良いけど・・・。いつも元気な分、より心配してしまう。今年だって皆がインフルになってるのに蒼は全然元気だったし。珍しいな、蒼のこういうとこ見るの。
ちょっと嬉しいかも・・・なんて明らかに場違いなことを考えてしまった。
 その後、蒼が元気になったところで昼食を食べ、なるべく激しくないアトラクションを選んで乗り、気づけばもう午後の六時半を過ぎていた。
 「美波、最後に観覧車乗ろう」
 「いいね!」
 観覧車の列に並ぶと、カップルが大勢いた。やっぱり、観覧車は人気なんだろうな。
私たちの番が来たので乗ると、運良く一つだけある、下が透明になっているゴンドラだった。
「わぁ、すごい。ちょっと怖いけど」
「そうだね。来て良かった」
「そういえば、去年も来たよね。このくらいの時期に」
「あぁ、俺が一回ふられたあとだ」
「それはごめん。・・・来年も、一緒に来れると良いね」
「・・・・・・・」
ふいに、蒼の顔が曇った。どうしたんだろう。
「蒼、何かあった・・・」
「あ!美波、ほら綺麗だよ。もうすぐ一番上」
蒼がわざとらしいくらいに明るい声で私の言葉を遮った。ほんとに、何があったの・・・?
「蒼、何かあったの?さっきからおかしくない?」
「美波・・・」
「お願い、話して」
語尾を強くして言うと、蒼が意を決したように私に向き合った。
「・・・俺と・・・・・別れて欲しいんだ」
ちょうど私たちが乗っているゴンドラが一番上に来たときに、蒼がそう告げた。本当なら、景色を楽しんだりするんだろうけど、そんな事している場合ではなかった。
「え?」
 蒼が言ったことが信じられなくて聞き返す。
 「俺と、別れて欲しい」
 聞き間違いであってという私のかすかな希望は蒼の声によって消されてしまった。
 「な、何で?何か、しちゃった?」
 「美波は何もしてない」
 「だったら何で・・・」
 すると、蒼は苦しそうに、私に言った。
 「俺、病気なんだ」
 「・・・え?」
 さっきよりも強い衝撃が私を襲う。蒼が、病気?
 「終業式のあと、家でぶっ倒れて、病院にいったら心臓の病気だって言われて」
 「で、でも何で別れるの?お見舞いだって行くよ?」
 「・・・これ以上美波のそばにいたら、死ぬのが怖くなると思うんだ」
 「し、死ぬって。そんなに深刻なの?」
 「・・・余命一年って言われた。でも、いつ死んでもおかしくないって」
 信じられなかった。ずっと元気だった蒼が病気だなんて。いつ死んでもおかしくない状態だなんて。そんなこと、信じたくなかった。全然今までそんなそぶり・・・もしかしてさっきのって・・・。
 「蒼。さっきのってもしかして病気のせい?」
 「ごめん、嘘ついて。結構なるんだ」
 「私、心配だよ。少しでも蒼のそばにいたい」
 「ごめん。それは出来ない。俺ももっと一緒にいたい。でも・・・」
 「なら!別れたくないよ。もっと・・・一緒に・・うっ・・いたいよ・・・」
 蒼の言葉を遮って伝える。いつの間にか、涙が溢れてきていた。
 「・・・ごめん、美波。こんなことほんとは言いたくない。でも、俺と別れてください」
 嫌だ、と声にならない気持ちが涙としてどんどん溢れてくる。でも蒼は、私に断る余地もないほどの真剣な顔で私を真っ直ぐに見つめていた。
 「・・・わ、分かっ・・うう・・・分かった・・・」
 涙でぐちゃぐちゃになった私を、蒼は優しく抱きしめた。・・・何でこんな時まで優しいの?離れたくなくなっちゃうよ・・・。
 「美波、ごめん。それと、今までほんとにありがとう」
 「私も・・・ありがとう、楽しかった。今まで」
 観覧車を降りた後は、蒼が家まで送ってくれた。家に入るとき、できる限りの笑顔を取り繕って手を振った。
 ・・・その時に見た蒼の可愛い笑顔が、最後に見る蒼の元気な姿だった。