莉子は恋愛経験が豊富だ。いまも他クラスに彼氏がいて、たまにのろけ話を聞かされる。だからなのか、莉子は恋愛に関しての勘が鋭い。今だってそうだ。逆って言っただけで全てを察したらしい莉子は、せっせと話を聞く準備を進めている。
 「ミルクティーとオレンジジュース、どっちがいい?」
 「ミルクティー」
 「はーい」
 部屋のどこをみても女子力であふれている。私の部屋とは大違いだ。ただ家具が置いてあるだけの殺風景な部屋。必要最低限の物しか置かれていない、女子力のひとかけらもない部屋。そんなことを考えているとミルクティーを二つ持って莉子が戻ってきた。
 「で、何があった?私が待ってる間に」
 「うん。教室に行ったら、山本くんが私の席で寝てて。スマホ机の中にあったからさ、どうしようか考えてて」
 「それでそれで?」
 「で、LINEの音で山本くんが起きて、スマホ取ってもらって」
 「それだけ?それにしてはずいぶん長かった気がするけど」
 「続きあるよ。教室出ようとしたら腕掴まれて。「なんで私の席で寝てたの?」って聞かないの?って言われて」
 「うんうん」
 「それでね、聞いてあげたの。そしたら・・・」
 「そしたら?何っ!?」
 「ちょっと、食いつきすぎ。そしたら、山本くんが言ったの。「佐倉が好きだから」って」
 「・・・いきなり告白!?やりますなー、モテ男は。で、返事は?」
 「いきなりすぎてびっくりして、突き飛ばしてきちゃった・・・」
 「突き飛ばしたぁ?山本を?女子が怒るなーそれ知ったら。ま、いつかは返事しなきゃいけないわけだし?あ、でも・・・。いやーまた突き飛ばさないか心配だなぁ」
 莉子・・・。心配してると口で言いながら顔で笑ってるから、この状況楽しんでることバレバレだよ・・・。でも莉子に言われるまで忘れてたけど、返事どうしよう。今まで意識なんかしてなかったし、嫌いではないけど好きでもないっていうか。あ、でも「付き合って」って言われた訳じゃないし。友だちとしてっていうことかもしれないし。そもそも山本くんと話したのなんて前期の委員会のときくらいで、あんまり話してないし。そうだよね。告られたわけでもないのに自意識過剰・・・。
 「莉子、今更だけど、多分好きっていうのは友だちとしてっていうことだと思う。あんまり関わりないし」
 「えー?そんなこと無いと思うけどなぁ。だって腕掴まれたんでしょ?絶対付き合ってっていう意味だと思うけどなー」
 「でも、言われてないし。だからこの話、忘れて?そろそろ私帰るね。ありがとう。聞いてくれて」
 「ちぇー、美波に初のイケメン彼氏ができると思ったのに。ま、美波がいいなら私は何も言えないや。気をつけてね。もう外暗いから」
 「うん。ありがと。また明日ね」
 「また明日」
 そう言って莉子の家を出た私は冷たくなる手に息を吹きかけながら歩く。三月、中旬。三日後から春休みだというのにまだ寒さは手を緩めず、膝上のスカートの中を冷たい風が通り抜ける。
 「疲れた・・・」
 今日は色々ありすぎて体も心も疲れ切っている。お風呂に入ってすぐ寝よう。そう決めた私は、寒さから一刻も早く抜け出すために全速力で家までの道を走った。