明日もきみが心から笑えますように


 文化祭当日。自分たちの仕事が終わった私たちは、蒼の提案でお化け屋敷の列に並んでいる。
 「お化け屋敷なんて初めて入るかも」
 「そうなの?俺、結構好きなんだよね」
 「へぇー」
 何かこういう会話、遊園地に行ったときにしたかも。あのあと私気持ち悪くなっちゃて膝枕してもらったんだっけ。蒼はなんだかんだいって優しいな。でもそのあと不機嫌になってて・・・。思い出すとつい笑ってしまう。
 「美波?急に笑ってたら怖いよ?」
 「え、あ、嘘!私笑ってた?」
 「うん、完全に笑ってた」
 見られちゃったか。何となく恥ずかしいな。
 「次の人、どうぞー」
 「美波、行こ」
 「あ、うん」
 わ、ほんとに真っ暗だ。何も見えない。ていうか蒼なんでそんなにどんどん進めるの?置いてかれちゃう。
 「あ、蒼待って・・・」
 トン、とふいに肩に手を置かれてふりかえると、髪の長い女が立っていた。
 「お姉さん・・・・助けて・・・た・・・す・・け・・・・・・てぇーーーーーーーーー!」
 「いやあーーーーーー!!!!」
 無我夢中で走った。途中、何かにぶつかって足を痛めたけどそんなのは関係ない。とにかく今は、ここから出るのが一番だ。あと、もうちょっと・・・。
 「はぁ、はぁ、で、出れた・・・」
 「え、美波?もしかしてあの叫び声って・・・。ははっ意外と大きい声出るんだな」
 「あ、蒼。何で先に・・・」
 「それはごめん。でも美波が出てきたときの慌てっぷり超面白かったなぁ」
 ・・・最悪だ。髪もぼさぼさになってるし、なによりみっともない姿を見せてしまった。こんなんじゃ告白なんて出来そうにない。
 「蒼、ごめんちょっと髪の毛直してくる」
 「了解。ここで待ってる」
 早く直そう。そう思ってトイレに向かうと同じクラスの女子の声が聞こえてきた。
 「・・・私、今日山本くんに告白しようと思う」
 「え!?でもさっき佐倉さんといたけど・・・」
 「そんなの関係ない。そんな事で諦めたくないから。だから、もしふられたら慰めて?お願い」
 「偉い、偉いよ!うん、もしものことがあったら思いっきり慰めるから」
 「ありがとう。じゃあ、行ってくる」
 「え、今?」
 「うん。早くしないと他の女子に取られちゃうかもしれないでしょ」
 足音が近づいてくる。あ、ここにいたことバレちゃう。隠れなきゃ。
 あの子たちがいなくなった後、ぼさぼさになった髪の毛を手ぐしでなんとか整えて蒼のところに向かった。
 「あれ、蒼?」
 そ、そういえばさっきの子これから告白しに行くって言ってたよね。まさか、本当に!?それに比べて私はそういう雰囲気になったらとか・・・。弱いな、私。こんな自分が嫌になる。
 ふとスマホを見ると、蒼からメッセージが来ていた。『ごめん、ちょっと用事。そこで待ってて』という内容だった。ほ、ほんとに告白したんだ、あの子。もし、蒼が好きな子があの子で、カップル成立なんてことになったら・・・。 私、こんなところで待ってる場合じゃないじゃん。
 蒼に『今どこ?私が行く』と送信して、人混みをかき分けながら私は蒼がいる場所へと走った。
 「蒼!」
 「美波。さっきはごめん。急にいなくなって」
 蒼、何か暗い。そういえばさっきの子もいないし・・・。
 「あ、蒼。何かあった?」
 「・・・告白されたんだ」
 「え・・・」
 頭では分かっていても、実際口に出されるとその事実が重くのしかかってくる。・・・返事は?
 「それでさ、断っちゃった」
 「そうなんだ・・・」
 「俺さ、やっぱり好きな人に振り向いて欲しいんだ。だから、美波に俺の好きな人教える」
 え、い、今!?どうしよう、今言われたらせっかくの決心がなくなっちゃう。
 「俺が好きなのは・・・・」
 「ま、待って!その前に、私の話を聞いて欲しいの。いい?」
 「え?あ、いいよ」
 「あのね、私・・・蒼のことが・・・」
 が、頑張れ私!!ここで告わなかったら絶対後悔することになる。
 「・・・私、蒼のことが好きです。・・・蒼のことは一回ふっちゃったけど、今は後悔してる。だから、その分今は蒼のことが好き。でも、蒼はもう違う人が好きなんだよね。ごめん、私が言いたかっただけだから。気にしないでね」
 い、告えた・・・。きっと蒼はこの後私をふるんだろう。それで私たちは今まで通りに戻・・・れたらいいけど。
 「美波、ごめん。」
 「うん、蒼も頑張ってね。応援してるから」
 「こんなこと、美波から言わせてごめん。・・・俺がもっと早く言えば良かったんだよな」
 「え?」
 何を言っているのか分からなくて蒼を見ると、真っ直ぐに、真剣な顔で見詰められ思わず目をそらしてしまった。
 「俺が好きなのは、美波なんだ。ふられた後もずっと好きだった」
 「・・・え?どういうこと?」
 「今から、美波に告おうと思ってた。でもまさか美波から告われちゃうとは思わなかったよ」
 やっと蒼が発している言葉を理解し、聞き間違えじゃないか、確認する。
 「ほ、ほんとに?夢、じゃない?」
 すると、蒼が近づいてきて私の体に腕をまわした。
 「夢じゃない。これからよろしくね、美波」
 「わ、私こそ・・・」
 自分の思いが繋がったことが分かり、涙が溢れてきた。この涙は、この間流した涙とは違う、嬉し涙だ。
 「ちょ、何で泣いてるの。」
 「ごめん、嬉しくて」
 「それは俺も一緒」
 その後は何があったのかよく覚えていない。でも、蒼のあの笑顔だけははっきりと目に焼き付いている。