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 「あれっ?」
 「どーした、美波」
 「スマホ、教室に忘れたみたい・・・」
 「えぇー?もう、相変わらずのドジっぷりだなー。いいよ、待ってるから」
 「ごめん、莉子。ダッシュで行ってくる」
 「はいはーい」
 佐倉美波、十六歳。昔から忘れ物はしょっちゅうあって、自他共に認めるドジ。だから今日みたいなことは珍しいことではない。幼なじみの莉子は優しいから、忘れ物をするといつも「相変わらずだなぁ」とか何とか言って、笑って待っていてくれる。今日もいつもみたいにすぐにスマホを持って、莉子に「ごめん」って謝って一緒に帰る・・・はずだった。私が教室に入ったとき、私の席で寝ている人がいたのだ。そういえばスマホは机の中にあったはず。ということは・・・
 「起こさないとスマホ取れない!?」
 どう声をかけようか。「あのぉ、すみません。スマホ取っていいですか?」いや、私の席だしこんなに丁寧に言わなくてもいいか。「おい、なんで人の席で寝てんだよ!」・・・乱暴すぎか。これ以上、莉子を待たせる訳にはいかない。でも、何て言えば・・・。
 ピコンッ
 机の中にあるであろうスマホから、LINEの通知音が鳴る。莉子だ。早くしなきゃ。
 「ん・・・?俺、寝てた?」
 お、起きた?今話すしかない!!
 「す、すみません。あの、スマホ取っていいですか。えっと、机の中にあると思うんですけど」
 「スマホ?・・・あ、これ?はい、どうぞ」
 「あ、ありがとう」
 良かった。これで帰れる。莉子のとこに戻ろう。そう思って教室を出ようとすると、強い力で腕を掴まれた。その力の主を見ると、さっき私の席で寝ていた男子―山本蒼だった。
 「何ですか?友だちが待ってるので急いでるんですけど・・・」
 グイッと引っ張られて顔を上げると彼の顔が目と鼻の先にあって体が硬直した。でもそんなのお構いなしに彼は口を開いた。
 「何で「私の席で寝てたの?」って聞かないの?聞かれんの待ってんだけど」
 「え?」
 「だから、なんで俺が佐倉の席で寝てたのか聞かないのって」
 「それは・・・。気になったけど・・・」
 「じゃあ、聞いて」
 ・・・何?この人。ずっと顔は近いままだし、そんなに言いたいなら自分から言えばいいのに。ていうか聞かないと帰れない感じ?もう、聞くしかないじゃん。
 「なんで、私の席で寝てたの?・・・これでいい?」
 「なんでかっていうと・・・。佐倉が好きだから」
 「・・・はぁっ!?」
 とっさに彼を突き飛ばし教室を飛び出た。何?私を好きって言った?だから寝てたって?頭の中が?マークだらけになってめまいがしてきた。
 「美波?もうどんだけスマホ探してたのって、え?どーした?」
 莉子の顔を見た瞬間、思わず抱きついてしまっていた。
 「山本くんって分かる?同じクラスの」
 「分かる。山本蒼ね。で、山本が何だって?あー、もしかして、山本のこと好きになっちゃった?そっかー、美波にもついに春到来かー。うんうん、嬉しいよ。幼なじみとして。でもライバル多いよー?山本、モテるし。イケメンだし」
 「莉子、そんなこと言ってたら彼氏が泣くよ?話が飛びすぎ。ていうか逆」
 「ん、逆?どういうこと?・・・え、あ、そういうこと!?こんなとこで話すことじゃないね。よし、ウチで話そ」