厳しい修行に耐えられる気力と体力が群を抜いているのも確かだが、后になるべき者の力は、呪いに対抗するために、どこかから授けられるのだとベレニスは考えていた。
 だが、王にかかる呪いのことは一部の者しか知らない。
 最も優れた聖女を后に迎える意味の重要性がイマイチ理解されていないのがもどかしかった。
 
 二番目や三番目の聖女ではダメなのだ。
 まして顔で選んだ聖女などに、王の呪いは癒せない。

「エドモンも二十歳を超えて、不調が出始めているようです。早急にアニエスとの婚姻を進めるよう、アンセルムに進言しなさい」

 聖女として、神官や同じ聖女たちに厳しく意見を言うことはあっても、政治や表向きの行事にベレニスが口を出すことはない。
 他国と違い、身分の低い者が后になることもあるバシュラール王国では、王后や王太后の力があまり大きくないのだ。黙って王に仕えるのがふつうだった。

 国を支えているのは、間違いなく后である聖女なのに。
 呪いの内容が明かされていないため、聖女が后になるのは単なる慣習だと考えられており、実家が太い聖女ならともかく、特に後ろ盾のないベレニスなどは政治の表舞台では軽く見られている。

 アンセルムやエドモンに言いたいことがあっても、神官たちを通すしかなかった。

「アニエスはどこなの?」
「それが、その……」

 神官は、頭を下げたまま「アニエスはもういない」と言った。

「いない?」
「エドモン殿下が、婚約を破棄してしまいまして……」
「なんですって?」
「しかし、次に選ばれたネリーも、たいへん力のある聖女で……」
「バカなことを言わないで!」

 まただ、とベレニスは思った。
 アンセルムの時と同じだ。

(どうして、うちの男どもは、どいつもこいつもああいう女が好きなの?)

 天使のように美しい顔立ちに、身体はアレだ、ボンキュッボンとかいう、出るとこがしっかり出ているアレである。

 心の中で罵ったはずの言葉に、なぜか神官が(私も好きです)と心の中で口を滑らせる。
 お互い、知らずに声に出していたようだ。

 ベレニスは神官を睨んだ。
 そして言った。
 
「急いでアニエスを探して、連れ戻しなさい」

 アニエスのウエストにくびれはないかもしれないが、聖女のとしての力は本物だ。あれは桁外れだ。
 正しい聖女を王太子妃に迎えないと、王室は本当に滅んでしまう。

「死にたくなかったらアニエスを選べと、エドモンを説得するのも忘れないで」