女神国が勃興して、しばしの時が経っていた。

その頃、女神国には奇妙な噂が立っていた。

『とある武器商がもたらした魔槍によって、女神国に呪いが降りかかっている』

事実、国の兵士がおかしな死に方をしたり、国には不穏な空気が漂っていた。

ここ数日、女王の方からお達しがあり、民衆は夜歩きはしないようにとの事だった。

「これじゃあ商売上がったりだな」

夕暮れ。

早々に店じまいをしながら、タッカーは一人ぼやく。

と。

「ん?」

黄昏迫る大通り。

そこを、俯き加減に歩くミーアの姿があった。

「ミーア、今帰りかい?」

タッカーが呼びかけると。

「あ…タッカー!」

暗く沈んでいたミーアの表情が、華やぐように明るいものへと変わっていった。

初めて会話を交わした時以来、タッカーとミーアは見かける度に挨拶をする程度の仲にはなっていた。

タッカーは、ミーアのような美人と話ができるのならと、その程度でも十分満足していたし、それ以上の事は高望みとさえ思っていた。

元々慎ましい性格だったのかもしれない。

ミーアには、憧れ以上の感情は抱いてはいなかった。