「誕生日にプレゼントもなし、か……フレンチのディナー断ったの失敗だったな」


フリーズしているアタシをからかう様に、新海がわざとらしい独り言を言う。


「アタシが作る」


アタシは睫毛の先についたしずくを軽く拭いながら、元気よく立ちあがった。


「フレンチ作んの? お前が?」


「さすがにフレンチは作れないけど……頑張る」


「ふ~ん」


「じゃあ、アタシ買い物行ってくるから、新海くんは部屋で待ってて」


すると何を思ったのか、新海が鼻を鳴らして小さく吹き出す。


「…………?」


「鼻の頭赤くして、トナカイみてぇ」


キョトンとした顔で、小首を傾げるアタシの鼻先を指で小突きながら、新海が笑った。


その笑顔に胸が締め付けられて、せっかく止まった涙がまた……あふれそうになる。


そんなアタシの鼻先に、新海が落とした……不意打ちの軽いキス。


新海は何事もなかった様に、開いたエレベーターへと乗り込み……


「ピザでも頼もうぜ?」


アタシの手を掴んで引き寄せ、その扉を閉めた。