そろそろ逃げようと思って、足を動かそうとすると…

「敦はまた紅愛のこと、お前って呼んでるで」

聞き慣れたくないが聞き慣れてしまった声が背後から聞こえる。

振り向きたくない。確固たる意思でそう思った。

「…潤」

驚いたような兵藤の声が聞こえる。潤なんて下の名前で呼んでいるから親しいのだろうか。

余裕のない頭でふとそんなことを思った。

「…なんで、潤がここにいるんだよ?」

兵藤の戸惑いが滲んだ声が聞こえる。そんな声に応じて足音は大きくなるばかりだった。

「なんでって、紅愛が前会ったとこで同じ時間集合って言ったやん。だから、来たんよ?」