無心でここで立っていたことに後悔が募る。

「…お前見ない顔だな。観光客かなんかか?」

こっちの心情なんて露知らず男はつかつかとこちらに歩み寄る。

男がこちらに近づいてくるたびに、心臓がドクリと嫌な音をたてた。

「…おい。さっきから聞いてんのか?」

うっすらと額に汗が滲み、身体が小刻みに震える。声を出して助けを呼ぼうと思っても、恐怖のあまり声が出なかった。

どうしよう…本格的に不味い。

こんな窮地に立たされないと普段は母に頼りっきりだということに気づかない私は馬鹿だと思い知らされる。

頭を抱えようとした瞬間。