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「『高橋生花店』……」

額に滲む汗を手の甲で拭いながら呟いた。

店内に入ると、甘く、それでいて爽やかな匂いが鼻孔に充満する。

目に星が散りそうな程色が鮮やかで、多種多様なそれは、いかにも女が好きそうだった。

「いらっしゃいませー」

奥から出てきた女がきらびやかに笑った。

年齢は、20代前半あたり、だろうか。
 
高校生と言われても通用しそうな若さ、いや、幼さを持っている。

透明感のある肌、優雅に上下する睫毛。

ほんのり桃色な頬、細めるたびキラリ、と一筋の光が走る瞳、ぽってりとした唇。

……中々美人じゃねぇか?

自然に唇の端が持ち上がる。

同時に、どこからか懐かしさを感じた。

「えと……?」

女が不思議そうに首を傾げる。

そのあどけない表情、仕草が愛らしかった。

「バイトの面接に来た、伊達と申します。店長さんはいらっしゃいますでしょうか、お姫様?」

自分でも、クサイな、と引くような歯の浮くセリフだ。

だが、女なんて単純なもので、こんなので赤面する女を、何人も見た。

特にこんな若いのは、オトしやすい。

「お、お姫様て……」

どうやらこの女は違ったようだ。

花のような笑顔が一気に崩れ、完全に不審がっている。

「っていうか私が店長です!馬鹿にしないで貰えますでしょうか」

強気な光が瞳から滲み、睨むことで更に鋭くなった。

中々芯がありそうで、俺の中の何かがくすぐられ、ゾクゾクする。

「おっと、これは失敬。あなたがあまりにも可愛らしかったので、つい」

鋭かった光が、冷たさを持ち、俺を容赦なく刺す。

へえ、これでも。

俺が出会ってきた女達があまりにもチョロかったことを思い知った。

「バイトの面接ですね?別室で、他の従業員も呼んで行いますので、私に付いてきて下さい」

翻されたエプロンを追うように、足を動かした。 

初めに俺に向けられた笑顔は、接客用だったのだと今、悟った。